競争的研究計画書、審査員の立場を考えよ

 先日、研究計画書に関するアドバイスをあげていた博士課程院生が研究室に飛び込んできた。ニコニコして飛び込んできた。

 彼女の研究計画書、実はカナダ政府奨学金の申請書であったが、無事に射止めたとのこと。メデタシ、メデタシ。いやー、よかった。この奨学金、全国競争なのでなかなかもらえない。もらえば「勲章もの」。なので、本人も大喜び。

 このアドバイス、実は複合的なものであったが、その核になる点は以下の二つであった。

 「研究計画書は『学術作品』と考えて漏れがないようカチッと作るのはいうまでもないが、より大切なのは審査員が『これは奨学金をあげずにはおられない』と思うような、ワクワクするような現代的キーワードを使って研究テーマを伝えること。」これが一つめ。

 二つめは、「そのテーマ、他人ではなくて自分こそが最適の研究者であることをさりげなくアピールすること。」

 言い換えれば、審査員の立場になって考えろ、とくに審査員が「数ある応募者のうち、アンタ、良いよ」といってくれるようなネタを考えよ、それも自分の強みを考えて、ということである。

 審査員、やっぱり世間のためになる研究をサポートしたい。となると、審査員がそう思ってくれるように、院生は研究計画に「装い」をほどこすことが肝要となる。仮に内容が同じでも「装い」が古臭くさいのとナウいのとではウケが違うのである、審査員のウケが。このナウさをほどこすためには現代的キーワードが必要となる。もっといえば、そうできない研究テーマはやめて別のものにすべし。そうでないと、(奨学)金がもらえない。

 その上、「この計画・・・あんた、これ実行できるの?」と審査員は尋ねてくるに決まっている。そこでアナタは以下のように反応しなければならない。「ハイ、できます。というのも私にはこういった適切な経験やスキルがあります。他の人はこういうの持っていないので、私だけです、この計画をうまく実行できるのは。ねっ、だから(奨学)金くれ!」そういうつもりで、研究計画書をあらかじめ組み立てておくのである。

 そう、これはまさに孫子の応用。知彼知己、百戦殆。彼(敵)を知り、おのれを知れば、百戦あやしからず(あぶなくない)。Know your enemy and know yourself, and in 100 battles you will never be in peril.

 以前のブログエントリーでも触れたけれども、この戦略、就職面接、大学院入試等々、「人が人を選ぶ」という状況にピッタリ使えます。孫子の偉大さ、つくづく思い知らされる次第。

 実は孫子センセー、百の戦いに全部勝つ、とは言っていない。「あぶなくなることはない」としか言っていない。なぜか?それは運というものがあるからである。

 研究計画書も同じ。孫子流に完璧なものを提出しても、応募者がどうしようもない要因が選考には必ずかかわってくる(選考委員会の構成など)。これはどうしようもない。

 しかし、である。孫子流に完璧なものを作らないと、アナタの研究計画書は最終選考まで残らないであろう。その後は運があるので分からないが、そこまでは確実にたどり着かないと話にならない。勝負の土俵にまずは上がらないと、勝負には勝てないのだから。孫子流戦略こそが、その土俵に上がるためには必須なのである。

 孫子センセー、ほんとにエライ。


 

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カナダの税制に関する日本の記事

 試験週間でバタバタしております。更新遅れて、すみません。

 珍しく、カナダに関する記事がでておりました。税制の話。ご関心あるむきはどうぞ。

http://www.yomiuri.co.jp/job/biz/columnworld/20120420-OYT8T00911.htm?from=yolsp

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秋入学は大学二分化の一歩

 東京大学が秋入学導入を唱えはじめて以来、他の大学から賛否両論、いろんな反応が出てきた。

 たぶん、将来は二分化すると思う、日本の大学は。片方は国際競争力重視型の大学。秋入学を導入するタイプの大学。もう一方は、なんだかんだいって秋入学を導入しない大学。まあいうなれば「国内派」の大学。

 これ、日本の産業界と酷似。国際競争力あるモノづくり部門と、そうでない(農業や土建業)といった部門とに日本の産業界、わかれている。

 産業界の場合、後者の国内保護部門は競争力が弱り衰退産業となってしまっているのは周知のとおり。

 大学の場合もそうなるのであろうか。そのうえ、少子化傾向のため「伝統的国内市場」は縮小する。「国内派」の大学はこのままではジリ貧ではなかろうか。

 などなど、秋入学のニュースを読むにつれて思うのである。皆さんはどうおもわれるか。

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オックスフォードの新「リーダー養成大学院」

 前のブログで、日本版「エリート育成用博士課程プログラム」のことについて触れました。

 日本語で公共政策大学院ともいうべきものがアメリカにはあります。例えば、プリンストン大学のウィルソン・スクールやハ−バードのケネディー・スクールとか。

 今度、オックスフォードにもできました。次の記事をごらんあれ。

http://www.nytimes.com/2012/03/26/world/europe/26iht-educlede26.html?pagewanted=1&ref=education

 世界レベルでのリーダーを育成するためのものとあります。

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Critical Thinkingとは

 カタカナで「クリティカル・シンキング」。まあ、th音が日本語に無いので「シ」となってしまう。一言でいえば批判的思考力。

 この逆は、「デマかもしれないのに他人のいうことを無批判的に受け入れる態度」。まあ、「どう思う?」と聞かれて「わかんない」というのも、批判的思考力が足りない証拠。「話の中身が無いけど、ただしゃべり続ける輩」も似たようなもの。要するに自分の力で考え抜くことができない人間は批判的思考力が無い人間となる。

 この批判的思考力の育成・訓練が、北米での文系教育の大前提となっている。情報を調査し、自分で考え、意見を発表し、反論に備え、相手を説得するという能力をパッケージしたものが、ここでいう批判的思考力の具体的内容。分野によって「情報」や「意見」の内容が異なるが、このパッケージは変わらない。これがいわゆるリベラル・アーツ教育の中身である。

 「論文執筆が批判的思考力の訓練には絶好の方法である」という事実、ご存知であろうか。

 説明しよう。

 まずは、図書館で文献や資料を体系的に調査し、それらを批判的に読みこなすことから始まる。それに基づいて、自分の立場を論理的に組み立て、証拠づける。その場合、考えられる反論に照らしあわせて、自分の立場に一定の留保をつけながらも、「これ以上は譲れない」というところまで研ぎ澄ます。そして、これらを論文という形で文章をつかって体系的・論理的に解説し、さらには口頭発表で聴衆に説明する(質疑応答も含む)。

 「ワタシの気持ち、わかってください」(単なる感想か感情の発露)とか「事実がすべてを語る」(事実の羅列)、はたまた「えらい人が言ったから、いいんじゃないですか」(権威に頼る)とか「どっちもどっちですよね」(判断力なし)というようなことでは無いのである。基本的な事実や情報をふまえた上で、キチンと自分の考えを体系的かつ論理的に、それも反論を認識しながらも展開し、それを発表するチカラを蓄えていくには論文作成が効果的。

 北米の文系大学教育を受けてキチンと議論できる人は、こういった訓練を受けている人。もちろん、人それぞれによって批判的思考力のレベルは異なる。しかし、エリート・レベルになるとその溢れる批判的思考力を駆使して組織を運営し、政策をくりだし、社会をリードしていくのである。

 実は、北米の小学生からこの訓練、やっている−−もちろん雛形であるが。アメリカとイギリスで力量あふれる人材がトップレベルで次々と、それも世代を超えて脈脈と輩出されてくるのも、こういった訓練を与える制度が小学校から大学レベルまで整っているからと思われる。実際、アイビーリーグやオックスブリッジから出てくる人材をみてそう思う。

 最近のニュースによると、そういった人たちを育成するべく、博士課程プログラムを日本にも作るとか。たいへん結構なことと思う。アラカルト方式で様々な学問や情報になじむだけというのではなくて、批判的思考力−−もちろん、この場合、社会や人間、さらには歴史に対する洞察力を含む−−を訓練する環境をぜひ整備していただきたいと思うのは私だけではなかろう。

 日本の様々な業界で人材の劣化が指摘されているが、根本的対策はやはり教育制度しかなく、批判的思考力の体系的な訓練はその鍵となろう。幸い、日本の様々なところで改革運動がすでに起こっている(例えば経産省の「社会人基礎力」計画など−−2010年3月6日の当ブログ、ごらんあれ)。この手の改革の成果は2世代、3世代経ないと出てこないが、大いに期待したいところである。

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プロフィール

Author:プロフェッサーX
性格は理系クンに限りなく近い文系学者。仕事の合間をぬって魚釣りにいそしみ、カナダの大自然をエンジョイしている。

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