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朝日新聞の不祥事に思う

 朝日新聞が「戦場慰安婦」記事を30年後になって訂正し、社長が記者会見で謝罪したのは、周知のとおり。この点については、様々な形で議論されている。在外日本人としてヒシヒシと感じるのは、センセーショナリズムと正義感に走る日本の一部マスコミがいかに日本の国益を大きく損なったか、という点である。文章や記者会見で訂正するだけでなく、実際に人員を複数海外に派遣して外国語で講演(もちろん質疑応答が出る)などして、「自分で尻拭い」をやってもらいたいというのが、正直な気持ち。

 今回は、別の視点から一つ。

 学術論文に関する査読という制度、その厳しさについてこのプログでも触れてきた。「同業者が原稿の質をあらかじめ判断した上で出版する」というこの制度、実は学術書あるいは学術関連書に関しても北米では一般的である。つまり、「ただ書いて出版社に持っていけば本が出版できる」というわけではない。いわば品質管理制度がしっかりしているのだ。大学出版会ではない商業出版社の場合でも、真剣な出版社は査読制度を導入している。逆にいえば、読み手の方からすれば、「この出版社の本の内容は信頼性があるが、あの出版社からの本の場合はダメ」という判断ができるのである。

 翻って、日本ではそうではない。このタイプの品質管理制度がない。あるとすれば、筆者名でもって品質の判断をするしかない。その危うさが今回、この「戦場慰安婦」問題で露呈した。

 どういうことか。

 「史実・証言」として朝日新聞がその議論の拠りどころとした吉田清治(故人)による2冊の本の内容が、実はフィクションであったのだ。「慰安婦狩り」の話は「小説」だと出版社側も認めたという。朝日新聞が今回、「真偽が確認できない」としてそれまでの立場を変えたのはそれを認めたわけであるが、そもそもこれら2冊は査読プロセスを経ていないと思われる。「査読なし」「品質管理なし」に出てきた原稿の内容に30年前、朝日新聞側が飛びついたわけである。そのツケを今になって払うこととなったのだ。いわば偽証を真に受けたのが、今回の朝日新聞の間違いの始まりであったということになる。

 そもそもプロの歴史家が執筆すれば、話は違っていたかもしれない。しかし、吉田はプロの歴史家ではなかった。出版社も商業出版社であって大学出版会ではなかった。そんな状況では、吉田本の内容をそもそも「史実」として信じるほうが悪いということかもしれない。しかし、それを朝日新聞はやったわけである。

 読者のみなさん、よく回りをご覧あれ。「史実」を述べているような体裁をとっている歴史本がいかに多いことか。とくにセンセーショナルな内容の本ーーつまり出版社側が売り上げを伸ばしたい本ーーの数々。どれがフィクションで、どれがそうでないのか区別できますか。

 それはまるで様々なプログのごとし。事実を述べているものもあれば、「解釈」を述べているものもある。とりわけ論争的なテーマに関してはこの点、大いに気をつけなければならない。だから、普通、プログは論文執筆する際には「信頼ある資料」としては認められていない。学生にもそういってある。

 こういう点について、日本の一同僚と話をした。すると彼いわく「日本では査読というのは、筆者に失礼になると思われているかもしれない」とのこと。となると、上でふれたように、原稿の品質管理は査読という制度ではなくて筆者個人にまかせるという、つまり一種の属人主義が日本では強いということであろう。

 日本のこういう状況では Caveat emptor (Let the buyer beware 消費者責任で商品を買うべし)ということとなる。これからは、朝日新聞もプロの歴史家に頼るべし。キワモノは金輪際一切使わないという教訓を得てほしい。

(ちなみに、証言の信憑性を確立する手法が学問では存在する。トライアンギュレーションというものであるが、ご関心あるむきは検索されたし。すぐ解説がでてきます。)
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性格は理系クンに限りなく近い文系学者。仕事の合間をぬって魚釣りにいそしみ、カナダの大自然をエンジョイしている。

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